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施設園芸の、病害発生原因

 

 

1.      施肥管理と病害発生

 

日本土壌肥料学会編が、20045月に発行した“施肥管理と病害発生(博友社)”において、

“リン酸過剰が土壌病害を助長する”という内容の論旨が展開されています。

 

内容は、旭村、鉾田町のリン酸過剰の調査と内容について述べられており、現状の蔓割れや、立ち枯れなどの障害による、メロン農家の減少の理由を認識させる結果となっています。

 

 その原因は、リン酸吸収係数の高い黒ボク土でのリン酸肥料信仰、とりわけ溶リン、グアノの過剰投入によるリン酸過剰を示しており、土壌分析で可給態リン酸300以上、水溶性リン酸40以上の圃場が非常に多いことを原点に病害発生の原因追求を行っています。

 

 論説内で、リン酸過剰が病害発生の要因であるとの仮設を設け、リン酸施肥を中止するよう勧告する内容となっているが、その著者である、東京農大の後藤教授の指導を受け、土壌分析と共にリン酸過剰圃場に、リン酸肥料を入れずに栽培している数名の農家(長野県、千葉県)から、当社HPtaihiya.com)経由で連絡があり(20049月)、2年間の指導で作物の品質が著しく悪くなったが、リン酸を施肥することは、いけない事なのかとの相談がありました。

 

 何よりも大切なのは、土壌のリン酸が過剰であることではなく、作物がリン酸を給肥できているかなので、水溶性のリン酸(過燐酸石灰、亜リン酸)の施用を進めたところ、作物の回復を見たとの礼状を郵便でもらいました。

 

 兼ねてから、施設園芸の濃度障害によると思われる、病害発生の深刻な昨今の状況は、堆肥製造業者である自分でも、その解決策は無いものかと微力ながら研究していました。

 

上記の書物と、農家の実情から、今一度その論旨を見直したところ、リン酸過剰害による、病害発生の原因追求と、その論旨の展開に瑕疵がある事が明確となりました。

 

 リン酸の過剰が病害の原因であることは良いとして、なぜリン酸が過剰になったかという原因追求が大事でありますが、農家が無策にリン酸を投入したからではなく、効かないか、もっと効かせたいからであり、それがメロンの品質の向上に結びついたからであります。

 

 リン酸の肥効が良いと、花芽の分化が良好で、受精結実の際の滅数分裂が良好で、細胞数が多くなり、シンク能力が最大限となることで、肥大良く糖度の高いメロンが収穫できるようになります。

 

 リン酸の肥効が作物の品質を高めるため、施肥をしたが、土壌中に過剰に残るのは、土壌のアルミナに吸着されるためですが、それだけではこれほどのリン酸が過剰にならないでしょうし、病害発生の根本的解決策ではありません。

 

 

 

 

2.      根こぶ発生メカニズムの間違い

 

そこで、上記書物の内容である、病害発生の原因としている根こぶ発生のメカニズムの試験データを検証してみます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

論旨内では、供試土壌の化学性(表V−3)をもとに、根こぶ休眠胞子を添加した試験を行いリン酸の過剰が、土壌の胞子の吸着を妨げ、病害を発生させると結論しています。

  リン酸過剰だけが原因であれば、灰色低地土の可給態リン酸が多いので、一番被害が多いはずですが、地上部と地下部の写真を見ても、被害の一番は、多腐植質黒ボク表層土である事が認識できます。

 

 表では、多腐植質黒ボク表層土に多い成分は、全炭素で可給態リン酸がそんなに多いものではありません。

 

 灰色低地土の全炭素も多くなっており、一番良好な多腐植質黒ボク下層土では、全炭素が適度な量でアロフェン(粘土)が多くなっています。

   

 粘土鉱物(ケイ酸)が多く、適度な腐植のある圃場が、根こぶ胞子を添加されても病害を抑止することが認識できますが、この試験結果であるにも関わらず、リン酸過剰が原因だとするのは、明らかなミスであります。

 

 また、右図でも多腐植質黒ボク表層土が、どのような土壌酸度でも、著しく発病することが、確認できます。

 

 結論として、土壌病害を発生させているのは、明らかに、土壌中の炭素含有量の多さであり、その投入源、つまり、もみ殻、のこ屑、バークなどの難分解性木質残渣の過剰投入が原因であります。

 

 

3.       投入有機物の損失  

 土壌の有機物投入は、ここ20年ほど前より急速に慣例化しましたが、その発生原因は、欧米型食生活の浸透(卵、肉)と高度成長期の建設ラッシュによる木質残渣の発生に由来しています。

 

 有機信仰の始まりと重なって、土壌中に畜産糞尿ともみ殻を大量に散布し、その投入単位は23トンという数量ですが、古今の農業で、これほどの畜産糞尿と木質残渣を投入した歴史はありません。またチグリスユーフラテス文明が滅びた原因は、河川高地での過放牧と灌漑による塩基障害であり、これと似た状況に成りつつあります。

 

 堆肥の投入量がなぜトンオーダーで示されたかの現況は、狭い日本での耕地面積と、畜産糞尿の過剰な量(化学肥料の3倍)を河川に流さずに、圃場に廃棄するために設定された量で、国際的には、窒素収支法でその投入量を畜産糞尿10aあたり、12.5kgと規定しています。

 

 つまり、窒素2%の畜産糞尿では、625kgまでの投入量で規定しており、これが環境を破壊しない土つくりであります。

 

 木質残渣の過剰投入は、畜産糞尿の好気性醗酵の、副資材として利用され、昨今では建築廃材、間伐材の廃棄物の堆肥が出回っており、廃棄物の処理がクローズアップされる中で、建築業の団体が、農地をその捨て場所にするために、各地で業務を展開しています。

 

 土壌中の腐植を増やすために有機物を投入することを行っていきましたが、上記の考察でも明らかなように土壌中の炭素含有量の過剰が土壌病害を発生させていますし、普遍的な土壌の腐植の含有量を増やすことが、農業の利益に結びつかないことが、昨今の施設園芸の問題とあいまって理解されてきました。

 

 英国、ロザムステット研究所130年間の小麦栽培試験では、堆肥区と化学肥料区との品質、収量に差が無いことを報告していますし、水耕栽培でも作物は生産できます。

 

 陸地炭素循環での土壌中の炭素含有量は、2〜5%程度で、腐植の多い圃場で10%程度、水田などでは、1〜3%程度になります。

 

 土壌の10aあたりの重量を100トンとしますと、2〜5トン程度と成りますが、ロザムステットの長期間(150年)の研究のなかで、炭素を植物遺体として、年間100s/10a施用される土壌では、1万年後に平衡状態に達し、土壌有機物の全炭素量が2.4t/10aとなることが報告されており、全炭素に対し腐植は重量で2〜3倍になることから、土壌腐植の含有量5トンの維持には、有機物で300sの投入で十分であることを報告しています。

 

 この裏づけとして、1843年以来畜産堆肥35t/ha(水分75%程度)を投入し続けたところ、最初の損失量が24%だったところが、22年後には、74%に達し、100年後には、96%が損失し、投入された3.5t/10aもの畜産堆肥の4%しか土壌に残留しないことを報告しています。

 

4.       適正堆肥投入量

土壌には、有機物を抱えられる最大量が存在し、必要以上な堆肥などの有機物投入の無駄を明らかにしていますが、それは、ある一定以上の有機物が土壌に含有すると、微生物の分解に伴う活性が高まり、有機物の無機化(ガス化)が旺盛になり、大気へ拡散されることとなるからです、3.5tの投入堆肥の4%つまり、140sしか投入されたことにならないのです。

 同時に、土壌の有機物の変動領域では、壤土について5%の有機物含有量が最大であることを報告しています。

 

 はじめに示した炭素での100s/10aの炭素投入量は、300s/10aの有機物の投入になりますが、その程度の投入でも、2.4t10aの土壌有機物の維持になりますし、根からの有機物の残存を考慮に入れますと、最大で、300〜500sの有機物の投入で十分ということになります。

 

上記の報告では、22年目の有機物投入の期間は、我が国での高度成長期からの畜産糞尿の増加と連動し、ここ数年の土壌病害の発生と、農薬の効かない病害の発生と連動しており、ここで有機物投入の見直しを必要としています。

 

5.      クオルモン

土壌病害の発生原因は、単純には糸状菌の土壌占有率の高さが一般的ですが、土壌の微生物が有機物の過剰により多くなると、一般細菌や放線菌と共に糸状菌も以外なく増加しますし、好気性環境下で優勢な一般細菌や放線菌と違い糸状菌は、嫌気環境でも増殖することが、病害を蔓延させる原因です。

 

土壌中の有機物含有量が増えて、微生物が多くなったと思い込んでいますが、多くなった微生物は、酸素を吸って、炭酸ガスを発生するため、土壌内のマクロポア(間隙)で酸素の収奪が発生し、土壌内は酸素不足に陥り、放線菌の増殖を阻害し、糸状菌の占有率を増します。

 

菌密度の上昇は、右記図のように、クオルモン(菌密度感知シグナル)が細菌の集団行動を誘発し、コップの水がこぼれると同じように、突然病害が発生することを解明しています。

 

菌密度の上昇は、前記した有機物の含有量の過剰によりもたらされるものであり、土つくりが病害を発生させることの理由が明確になりました。

6.      窒素飢餓とリン酸飢餓

ここまでで、土壌病害の発生原因がリン酸過剰ではなく、土壌有機物の過剰投入が原因であることが、理解できたと思いますが、この症状を改善させるために、堆肥などの有機物の投入を控えることが、最大の急務であり、また、即効性の化学肥料を使用することを強く勧めるものです。

 

しかし、大量に投入された土壌から有機物を取り出すことは、不可能なので、今後の対策として、上記の認識だけでは、有機物過剰の圃場を危機から回避させることができません。

 

土壌消毒剤の効能が、現れなくなる原因は、すべての微生物を死滅させても、その餌となる有機物が過剰にあるためで、解決策にはなりません。

 

リン酸過剰になった原因は、リン酸肥料の投入が原因ですが、必要以上のリン酸を投入した原因は、リン酸の肥効が現れないためで、木質有機物の過剰投入の圃場においてリン酸が過剰であるケースが多く見受けられます。

 

有機物の組成は、簡単には、水に、炭素を中心としてできた炭水化物、それに窒素がついたタンパク質、リン酸のついた核酸でできています。

 

 人間と微生物や小動物も同じで、大まかには呼吸を行い酸素とATPのエネルギーで代謝を行い、炭酸ガス(CO2)を放出します。

 

 窒素炭素比率の認識が重要で、動植物遺体は普遍的な土壌の炭素率(13)で完熟の状態になりますが、その呼吸作用に炭素と酸素が重要となり、微生物の増殖には窒素が必要となり、炭素が多いと窒素飢餓になり、窒素が多いと植物に利用され、過剰であると濃度障害を起こすのはこの原理によるものです。

 

炭素率の認識こそが、窒素肥料の肥効の認識と考察に大事でありますが、平成12年より特殊肥料の表示に炭素率が義務づけられ、炭素率の表示認識の無い有機堆肥は、使用を控えるべきです。

 

右図のように平均的な土壌の元素組成は、土壌のバイオマス(微生物)の平均的な躯体の組成を示すこととなりますが、窒素炭素率と同じようにリン炭素率を考察すると、C/P比108となるのが分かります。

 

これは、微生物の代謝のために炭素に対しての、リンの比率を顕しており、上記の窒素飢餓と

同じリン酸飢餓の可能性を暗示しています。

 

リン酸は、土壌に吸着されるため、水溶性として通常0.3mg/g以下の濃度でしか存在しておらず、

C/P比108から考察したとしても300倍以上の炭素が存在すると有機化(微生物になる)してしまい、植物には利用できなくなります。その量は300s/10a以上の炭素有機物となり、2〜3tの堆肥投入が過剰であることが理解できます。

 

 したがって、リン酸吸収係数の高い黒ボク土での、リン酸過剰蓄積の原因の背景には、明らかに堆肥などの木質系有機物の過剰投入が原因であり、有機肥料の投入も手伝って、リン酸の有機化と過剰蓄積を招きました、この考察をもとに、リン酸過剰圃場の10年以上の投入履歴を調べると、必ず、一時的でも、もみ殻、バークなどの、木質有機物の過剰投入(3t以上)を経験しており、ここに土壌病害発生のメカニズムを、明確に理解できることになります。

 

 土壌病害の発生原因と対策を明確にしますと

             

               原  因               対   策

 

1.        堆肥の過剰投入    2〜3t/10a    炭素率13に近い堆肥を400500s

2.        微生物密度の上昇   有機物の偏重使用   化学肥料の適正使用

3.        リン酸過剰(有機化) 木質残渣の過剰投入  未分解なモミ殻、バーク投入中止  

4.        リン酸飢餓        同 上      過燐酸石灰、亜リン酸液肥の追肥

 

 

昨今の我が国農業の危機的状況は、有機物使用に疑いを持たない、社会環境がその現況であり、有機偏重を用意に変更できる状況にありません。

 

しかしながら、悪者とされた農薬でさえも、克服できない土壌病害の蔓延は、その原因を真摯に受け止め、数百年単位での土壌循環を考察し、過去の歴史に学び、現状の状況を明確に認識することから、はじめなければ成りません。

 

ここに来て、化学肥料の贖罪はどこにも無く、有機物の使用量を“有機だからいくら入れても良い”

から、科学的な認識をもとにその収支を明らかにして、農薬や肥料のように、明確な使用量を適正に投入し、河川への硫亡も含め、必要以上に投入しない方法を確立すべきであります。

 

6畳の部屋に2〜3人であれば、ゆっくり話もできますが、有機栽培家が吹聴する微生物の量が桁違いに増えるということは、6畳に20〜30人いるのと同じで、2桁も増えると、200〜300人という入りきらない量になります。

 

 もう一度有機物の信仰から解き放たれて、適材適所に有用な資材を使用し、病害の発生しない圃場を復活させる必要があります。

 

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平成17526

()バイオマスジャパン

松元信嘉