地球 ちきゅう earth
表表−おもな元素の宇宙存在度と全地球,地殻の化学組成 表表−おもな元素の宇宙存在度と全地球,地殻の化学組成

軌道半長径= 1 天文単位 (1 億 4959 万 7870 km )

離心率= 0.0167

太陽からの距離 最小= 1.471 × 108 km 平均= 1.496 × 108 km 最大= 1.521 × 108 km

公転周期= 365.256 日 平均軌道速度= 29.78 km / s

赤道半径= 6378 km

体積= 1.0832 × 1027 cm3  質量= 5.974 × 1024 kg

平均密度= 5.52 g / cm3

自転周期= 0.9973 日 赤道傾斜角= 23.44

アルベド= 0.30

赤道重力= 9.80 m / s2  脱出速度= 11.18 km / s

太陽系内の一惑星。月を衛星にもつ。月や他の地球型惑星とともにおよそ 45.5 億年前に誕生した。その固体部分は半径約 6400 km のほぼ球形をなし,表面の凹凸は最大 10 km 程度である。地表面積の約 70 %を海洋 () が占め,その全体を大気の層がおおう。地表付近の環境は動植物の生育に適し,進化の過程で多岐にわたる生物が発生した。なかでも人類は高度の知識をもって文明を築いた。地球外生物が確認されていない現在,生物の存在は地球最大の特徴といえよう。

【公転と自転】

 地球は太陽から平均距離約 1.5 × 108 km (およその平均距離 1.49597870 × 108 km を 1 天文単位という) の円軌道上を,周期約 365.2564 日 (平均恒星年),毎秒 29.78 km 程度の速さで公転している。正確にいえば,ケプラーの法則に従って,太陽を一つの焦点とする楕円軌道を回るが,離心率は他の惑星に比較して,金星とともに小さい。北半球は冬季に太陽が最も近く 1.471 × 108 km (近日点),夏季に最も遠く 1.521 × 108 km (遠日点) である。自転の周期は約 23 時 56 分 4.0905 秒 (1 平均恒星日) で,その向きは公転の向きとも太陽の自転の向きとも同じである。太陽が正午に南中してから翌日の正午に南中するまでの時間を 1 平均太陽日 といい,これを 24 時間とする。自転により昼夜の区別が生じる。また自転軸は公転軌道 (黄道) 面に対して斜めに傾き,赤道面が黄道面に対して約 23.44 度の一定の角度を保ちながら公転している。四季の別が生じるのはこのためである。

 自転軸の空間的方向に北極星が位置する。しかし地球が回転楕円体であることと,自転軸が公転軌道面に対して傾いていることにより,太陽の引力によって偶力が生じる。一方,自転軸は月の軌道である白道面に対して傾いており,同様な偶力が生じる。偶力は自転軸を公転軌道面に対して直角に,すなわち自転軸を起き上がらせる向きに働く。自転軸はこの力にそのまま従えず,直角な方向に逃げようとし,黄道極の北からみて時計回りに回転する。この運動を歳差といい,自転軸の方向は約 2 万 6000 年で 1 回転する。 1 万 3000 年後には織女星 (こと座α星) が北極星となり, 2 万 6000 年後にふたたび現在の北極星となる。一方,赤道と月の軌道である白道との交点は約 18.6 年周期で黄道上を逆行するため,月による偶力は周期的に変化し,地球の自転軸の空間的位置は歳差運動に重なった約 18.6 年周期で振動する。また,地球と月,太陽の距離が変動することによる偶力の変化などのため,この周期以外にもさまざまな周期の振動があり,これらを含めて章動という。章とは古代中国暦法で 19 年を意味する。

 このほか,自転軸が地球の慣性主軸とわずかにずれているために,自転軸は両極を結んだ軸 (極軸または形状軸) と一致せず,自転軸は極のまわりをおよそ 15 m の範囲で移動している。この現象を極運動または チャンドラー運動 といい,約 430 日周期 ( チャンドラー周期 ) の緯度変化として観測される。この現象は人工衛星の軌道変化によっても確かめることができる。チャンドラー運動はおもに四季の気圧配置や海流の変化による。このほか南極の氷床の消長,大地震,地殻変動,地球の核とマントルとの間の電磁気的カップリングによっても自転速度に変化が生じる。海水と海底との間に生じる潮汐摩擦によって自転にブレーキがかかり,しだいに自転速度が減る現象を 永年減速 といい, 1 日の長さが 100 年間に約 0.014 秒ずつ長くなる。一方,月の公転速度も海水の引力によって減速され,ケプラーの第 3 法則に従って,地球と月との距離は 3.3 cm /年の割合で大きくなる。

【地球の内部構造】

 地球の内部はちょうど卵の構造に似ている。最も外側の卵の殻に相当する部分が地殻であり,白身および黄身に相当する部分がマントルおよび核である。地殻は大陸部で平均 30 km くらいの厚さをもち,その上部はおもに花コウ岩質岩石,下部はおもに玄武岩質岩石によって構成される。海洋部では平均 5 km くらいの厚さをもち,堆積層と玄武岩質岩石により構成され,花コウ岩質岩石を欠く。地殻底部はモホロビチッチ不連続面 (略してモホ面) によりマントルと境する。モホ面の深度は大陸部で深く,海洋部で浅い (アイソスタシー)。

 マントル上部はカンラン岩質岩石により構成される。このことは隕石の化学組成から推定できるが,地震波 (P 波) の速度分布と岩石試料の高温高圧下における弾性波速度実験結果との対応によっても確かめられる。カンラン岩の主要構成鉱物であるカンラン石 (Mg2SiO4と Fe2SiO4の固溶体) は,高圧下 (100 〜 120kbar) においてはオリビン構造からスピネル構造へと結晶構造が変わる。深さ 400 km から 1000 km にかけての P 波速度の不連続的増加は,この結晶構造の転移に対応すると考えられる。深さ 1000 km 以深のマントル下部では,化学組成もカンラン石から MgO,FeO, SiO2などのより単純なものに変わると考えられる。

 地表から深さ 2900 km においてマントルから核へと変わる。核は外核と内核とに分かれ,地震波のうち P 波は外核を通過するが, S 波は通過しないことから,外核は液体であることがわかる。半径約 1300 km の内核は固体と考えられる。鉄隕石の化学組成から推定して,核の主成分は鉄であり, 10 %内外のニッケルと,水素,酸素,硫黄など数%の不純物が含まれると考えられる。

 外核は流体であるから対流運動の存在は容易に理解されるが,マントルのような固体の対流運動は考えにくい。しかし地層の褶曲からも推察できるように,固体にも非常にゆっくりとした粘性的流体運動が存在する。とくに地表から深さ 100 〜 200 km あたりで P 波速度が遅い低速層には対流があると考えられている。 ⇒地殻マントル

【地球の磁気】

 地球は北極に S 極,南極に N 極をもつ巨大な磁石だと考えることもできる。この地球の磁場は,おもに溶融した鉄からなる外核の流体運動が一種の発電作用を営み,それによって保たれていると考えられる。 ⇒地磁気

萩原 幸男

【地球の化学組成】

 地球の化学組成を求めることは地球化学の難問の一つであり,従来からいろいろな推定値が出されている。地球物質のなかで化学分析値が得られているのは地殻のごく表層の物質に限られており,残りの大部分の化学組成は妥当な仮定にもとづく推定によらざるをえないからである。

 地球の材料物質の化学組成,いいかえれば地球が生まれるもととなった原始太陽星雲の化学組成は, 〈元素の宇宙存在度〉 として求められている。この 宇宙存在度 は,現在入手できる太陽系内物質で最も始源的な,つまり原始太陽星雲の組成を保存している,と考えられているある種の炭素質コンドライト隕石の化学分析値と,太陽大気の分光学的に測定された化学組成などをもとに求められた。 に,元素の宇宙存在度と,全地球,地殻のこの化学組成を示した。この表からわかるように,その存在度の特徴として次のことがいえる。 (1) 著しく多量な元素は水素とヘリウムで,次いで酸素,炭素,ネオン,窒素,マグネシウム,ケイ素,鉄,硫黄の順で多いが,これらはすべて原子番号が小さい元素である。 (2) 全体的傾向は,原子番号 45 番付近まで指数関数的に減少し,それ以上ではほぼ一定である。 (3) 原子番号が小さい元素でもリチウム,ベリリウム,ホウ素だけは著しく少ない。 (4) 一般に原子番号が偶数の元素は両側の奇数番の元素より多量に存在する ( オド Oddo=ハーキンズ Harkins の法則 )。これらの特徴は,太陽系を構成している元素が恒星の進化に伴う種々の核反応で合成されたことを示している。

 地球など太陽系の内惑星は, 〈宇宙存在度〉 をもつ原始太陽星雲ガスが冷却し,順次凝縮してくる物質が集まって形成された。その構成成分は,凝縮温度のちがいにより,初期に高温で凝縮する成分ケイ酸成分,金属成分,1300 〜 600 K で凝縮する揮発性成分, 600 K 以下で凝縮する揮発性成分の 5 種類に分けることができる。地球の構造や密度,地殻熱流量などに合うように各凝縮成分の存在比を決めると,地球の化学組成を推定することができる。 に示したのはこのような仮定にもとづいた計算結果である。なお,水星や金星,地球,月,隕石母天体など原始太陽星雲から同じような過程を経て形成された天体の化学組成のちがいは,各天体の生成条件のちがいに対応して各凝縮成分の存在比が異なることによると考えられている。たとえば,月の化学組成が地球に比べて初期凝縮成分に富み,金属成分,揮発性成分に乏しいことや,水星の化学組成が金属成分に富み,揮発性成分に乏しいことは,これらの天体の生成条件に大きな制約を与えている。

 地殻は,地球全体の質量の 0.4 %を担っているにすぎないが,その平均化学組成は,地表岩石の多くの分析値をまとめて,古くから推定されてきた。そのなかでも,1924 年に クラーク F.W.Clarke が発表した値が有名であり, 〈クラーク数〉 と呼ばれている。その後多くの化学組成が発表されており,今日では 〈クラーク数〉 は歴史的な重要性をもつにすぎない。表に示したのは大陸性地殻の化学組成の推定値である。地殻は玄武岩や花コウ岩などから構成されており,元素別にみると,酸素,ケイ素,アルミニウム,鉄,カルシウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウムの 8 元素で 99 %以上を占める。全地球の化学組成に比べて,カリウム,ルビジウム,セシウムなどイオン半径の大きいアルカリ元素が著しく濃縮していること,貴金属など還元されやすい元素が著しく欠乏していることがいえる。前者は,マントルから地殻が形成する過程で地殻物質への濃縮が起こったためと考えられ,後者は,マントルと核が分離する際に核のほうへ入ったためと考えられている。

 地球全質量の 0.024 %を占める水圏の大部分は海水である。海水の化学組成は,水を構成する酸素と水素とが主成分であり,溶存成分は,多い方から,塩素 (1 万 9000 mg / l ),ナトリウム (1 万 0500),マグネシウム (1350),硫黄 (885),カルシウム (400),カリウム (380) とつづく。

 気圏は地球全質量の 0.00009 %を占めているにすぎない。大気の化学組成は,高さ約 60 km 以下では対流によって一定に保たれており,窒素 (78.09 体積%),酸素 (20.95),アルゴン (0.93),二酸化炭素 (0.03) などから構成されている。

 地球上で生物圏の占める割合は,気圏の全重量の約 1/300 であり,全地球的には無視できるくらいの重量しか占めていない。平均化学組成の推定は難しいが,生物体は水と有機物質と灰分とから成っており,水素,炭素,窒素,酸素,リンが主成分元素である。

野津 憲治

【地球の歴史】

[地球の誕生]

 約 46 億年前,一つの星間雲が収縮をはじめ,原始太陽とそのまわりを回転する円盤状ガス雲の原始太陽系星雲が誕生した。原始太陽系星雲の質量は太陽の 1/100 程度,化学組成は太陽と同じで,温度は地球の位置する所で 1000 〜 2000 K であったと推定されている。この星雲の温度が下がるにつれて,その中から微細な塵のような固体粒子が凝縮しはじめた。これらの粒子は相互に衝突して付着しながら成長し,星雲の赤道面に沈殿して固体の薄い円盤層をつくった。この円盤層の密度が上昇し,ある限界値以上になると,この固体層は分裂して微惑星と呼ばれる大きさの破片になる。この微惑星が相互に衝突,合体成長を経て,最終的には地球など 9 個の惑星のもとになる原始惑星が形成された。星間雲の収縮からこの原始惑星の形成までは, 1000 万〜 1 億年程度であったと推定されている。地球と木星といった惑星間のちがいは,原始惑星ができた原始太陽系星雲内の場所による物理条件のちがいによっているらしい。

 できたばかりの原始地球は固体粒子が一様に集まったもので,外側には原始太陽系星雲の厚いガスが取り巻いていた。その濃い原始大気の保温効果のもとで,微惑星集積の際に解放された重力エネルギーは,地球全体を暖め固体粒子を溶かした。溶解した固体粒子中の鉄やニッケルなど重い金属は地球内部へ沈んで核を形成し,ここに核とマントルの分離が起こった。この時から現在までの時間を一般に地球の年齢としている。放射性同位体を使って求められた地球の年齢は 45.5 億年である。この地球の年齢に比べれば,星間ガスの収縮から地球の誕生までの時間 (1000 万〜 1 億年) は大変短い (太陽系の起源に関しては本項目で説明した以外の説もあり,詳しくは太陽系 の項目を参照されたい)。

大陸形成

 現在,地球上で発見されている最も古い岩石は,西グリーンランドの片麻岩で約 38 億年であり,北アメリカのミネソタ河谷の花コウ岩も同じく約 38 億年であるが,後者はやや信頼性に乏しい。他の古い年代では,南アフリカのジンバブウェ地域の花コウ片麻岩で約 36 億年,オーストラリア,インド大陸での 34 億〜 35 億年の報告がある。これら岩石の年代測定の研究から,大陸の中心部に古い岩石があり,周辺部へいくほど若くなって年輪状に広がっていることも見いだされた。これは,大陸周辺部に常に新しく大陸地殻がつくられて大陸が成長することを意味している。現在の火山活動や造山運動が大陸周辺部に存在するのはこの表れなのかもしれない。このように地球の誕生後しばらくたった約 38 億年前, 大陸地殻の芯となる部分が形成され,成長を始めたと思われる。実際には 38 億年より古い岩石が存在したのだが,その後の火成作用で現在は消滅してしまったという可能性も完全には否定できない。上述の西グリーンランドの古い岩石試料には,水中での堆積起源の試料があり,これは 38 億年以前の水の存在とそれより前に火成作用があったことを示している。これに対して海洋底の岩石の年代は最も古いものでも 2 億年と大変若い。

 プレートテクトニクスによれば,大西洋,太平洋,インド洋の海洋底には海嶺と呼ばれる大山脈が連なっているが,海嶺では下からマントル物質が湧き出して新しい海洋底がつくられ,両側に広がり,やがて海溝をつくって大陸の下に沈み込んでいく。そのため海洋底の岩石や堆積物の古いものは大陸の下へ消滅していき,現在では古いものでもたかだか 2 億年の年代しかないと説明される。さきの大陸周辺での新しい大陸地殻の生成も,この海洋底の移動と沈み込みに伴う大陸周辺での火山活動,地殻変動によるものかもしれない。また,海洋底の移動に伴う大陸どうしの衝突による地殻の褶曲などの造山運動も, 大陸周辺部の新しい地殻の生成に関与している。

 このように大陸は 38 億年ほど前に形成された芯を中心に成長を続けマントルの上に浮かんでいるが,海洋底は常に新しくマントル物質からの生成消滅を繰り返している。

[大気と海水の形成

 地球を取り巻いて保温効果を行った濃い原始太陽系星雲のガスは,そのまま現在の大気になったのではない。現在の大気中のヘリウム,ネオン,アルゴン,クリプトン,キセノンといった希ガスは,太陽系内の希ガスの存在量に比べて極端に少ない。もし原始太陽系星雲のガスがそのまま現在の大気になったとすれば,化学的に不活性なこれら希ガスの極端な欠乏を説明するのは難しい。そこで,原始地球を取り巻いていた大量のガスは一度なんらかの機構で散逸してしまい,そののち地球内部から二次的に脱ガスしてきた水素,水蒸気,塩酸ガス,希ガスなどが現在の大気の起源となったとする説と,誕生した直後の地球には大気はほとんど存在していなかったとする説がある。前者では,大量のガスを散逸させた機構としては,太陽の強烈な太陽風によって吹き飛ばされたという説や,木星や土星など大型惑星の重力の作用によるという説があるが,よくわかっていない。二次的な脱ガスは,地球内部から徐々に出てきたという説と瞬時に起こったという説があるが,後者の方が確からしい。大気中のアルゴンやキセノンの同位体比の研究から,地球形成後,少なくとも 5 億年以内に脱ガスの 85 %以上が完了したと推定されている。原始太陽系星雲のガスの散逸は,これ以前に起こっていたことになる。

 二次的に脱ガスされた気体の主成分の一つである水蒸気は,温度が下がると水になり,その中に大気中の塩酸ガスが溶け, 0.3 〜 0.5 規定の塩酸溶液になる。これが海水の起源である。大気を形成するガスが地球誕生後約 5 億年のうちにほとんど脱ガスされていたとすれば,海水もその時までにはほとんど形成されたのであろう。塩酸溶液の海水は岩石と接触し,岩石中の元素を溶液中に溶かし出す。こうして中和され,陽イオンと陰イオンを含む海水が形成された。

 最初にできた塩酸溶液の原始海水と共存する原始大気の主成分は炭酸ガスであった。炭酸ガスは酸性溶液には溶けないが,海水が中和されると水に溶け込み,海水中の炭酸イオンとカルシウムイオンが一緒になり,石灰岩をつくった。これにより大気中の炭酸ガスの量が減少したにちがいない。火星や金星の大気が炭酸ガスが主成分であるのに地球が異なっているのは,地球に水が存在して石灰岩をつくったためである。現在の大気中の酸素は,大気中の水蒸気が紫外線によって分解されてできたという説もあるが,光合成をする生物によってつくられたという説が一般的である。

[生命の起源]

 約 35 億年前の南アフリカの岩石中に生物の微化石が見いだされることから,生命の起源は少なくともそれ以前ということになる。出現した酸素は,初めのうちは鉄の酸化などに消費され, 20 億年ほど前から大気中に蓄積を始めた。約 6 億年前ころになると有害な太陽の紫外線をさえぎるほどになり,生物の多彩な出現が始まって地質時代に入ることになる。 ⇒地質時代

松田 准一

【地球観の変遷】

 昔の人は地球を平板のように考えていた。大地は周囲に海をめぐらし,その外側を高い山々が囲み,天球はこの高い山々を支えていた。地球が球形であるとの考え方は古代ギリシアに始まった。アリストテレスは月食のときに月面にうつる地球の影が円いことから,地球を球形と推論した。初めて地球の大きさを求めたのは,前 220 年ころ,エラトステネスである。彼はナイル川に沿って南北に位置するアレクサンドリアとシュエネ (現在のアスワン) との距離と緯度差とを知って,地球の円周を 4 万 6000 km と計算した。この値は現在の正しい値に比べて,わずかに 15 %の誤差しかない。

  17 世紀後半,I.ニュートンは力学理論にもとづいて,地球を回転する完全流体と仮定し,その平衡形から地球を回転楕円体と結論した。そして楕円体の赤道半径aと極半径bから,扁平率f= (ab)/aを 1/230 と計算した。現在の最も正しいfは 1/298.257 である。 18 世紀になって,フランスのアカデミー・デ・シアンスは実際に地球の子午線の弧長を測定して,地球の形が回転楕円体に近いことを立証した。 20 世紀後半に入って,人工衛星の軌道要素の摂動を観測して地球の形が求められるようになった。最近の技術では,人工衛星からレーザー高度計を用いて,直接に地表 (海面) との距離を測定することにより,一段と詳細な地球の形 (ジオイド) が決定できる。

 地球の形状が早くから球と考えられたのに対して,太陽系内の惑星としての地球観が確立したのは比較的遅い。 16 世紀初頭,N.コペルニクスが地動説を発表するまでは,プトレマイオスの天動説が天文学の基礎をなしていた。 G.ガリレイが 4 個の衛星が木星のまわりを公転するありさまや金星の満ち欠けを望遠鏡で眺めるに及び,地動説の正しさを確信し,彼の著書で主張した。さらに T.ブラーエの火星軌道の観測結果から, J.ケプラーは惑星の運動を楕円運動で説明するケプラーの法則を発表した。これらの知識はニュートンの力学によって集大成され,しだいに地動説が天動説にとって代わることとなった。

 その後,計測技術の進歩から,今日,観測精度は飛躍的に向上した。これまではノイズとして除去されてきた小振幅の時間的変動は,今や観測対象そのものになった。極運動,自転速度の変化,大陸氷床の消長に伴う長期海面変動,プレート運動とそれに伴う大陸移動,大規模地殻変動などが VLBI (超長基線干渉計) や GPS 衛星 (全地球測位衛星システム) の登場によって直接に測定できるようになった。つまり,今日の地球科学は 〈変動する地球〉 を研究対象としはじめた。そしてさらに,人類活動が地球規模に達するに及んで,その影響が地球環境を破壊しはじめた今日,地球科学は人類活動も含めて地球環境コントロールを目ざす必要に迫られている。

萩原 幸男