ポドゾル podzol

湿潤寒冷気候帯の北方針葉樹林 (タイガ) 下に典型的に発達する土壌。 灰白土 ともいわれ,またアメリカ合衆国の新分類体系では スポドソル Spodosols と呼ばれている。 ポドゾルという名称は,この土壌が堆積腐植層の下に特有な灰色の土層をもつことにちなんで,ロシア語の 〈下〉 〈灰〉 を意味することばからつくられたものである。湿潤寒冷気候下では,地中動物や細菌の活動が不活発なため,地表に堆積した動植物遺体は完全に分解されず,厚い堆積腐植層 (A0層) が形成される。この堆積腐植層は真菌類や糸状菌によってゆっくりと分解されるが,その際にフルボ酸と呼ばれる強酸性の有機酸が生成する。フルボ酸はケイ酸塩鉱物を激しく分解して,アルカリ元素やアルカリ土類元素を溶脱するとともに,鉄やアルミニウムと可溶性の有機金属錯体またはキレート化合物を形成して,下層に移動集積する。その結果 A0層の下にケイ素に富んだ灰白色の漂白層 (A2層) が形成されると同時に,さらにその下方に暗い鉄さび色を呈する鉄,アルミナの集積層 (Bs層) または腐植の集積層 (Bh層) が顕著に発達する。このような過程を ポドゾル化作用 といい,一般に多少ともポドゾル化作用を受けている土壌を ポドゾル性土 と呼ぶ場合が多いが,ソ連の分類体系では A0層の直下に A2層があるものをポドゾルと呼び, A0層と A2層の間に腐植と無機質母材がよく混合された A1層が存在するものを ジョールン・ポドゾル性土 として区別し,両者をまとめてポドゾル性土と呼んでいる。 ポドゾルは強酸性反応を示し,養分が極度に欠乏しているため,肥沃度はきわめて低い。ユーラシア大陸では北極圏以南から北緯 50付近まで,北アメリカ大陸ではやや南下して五大湖付近に至る周極地帯に広く分布している。日本では北海道北部および本州,四国,九州の亜高山帯にみられる。ヨーロッパのヒース (ハイデ) 植生,ニュージーランドのカウリ林,日本のヒバ林やコウヤマキ林などの特殊な植生の影響を受ける場合や,強度の乾燥を伴う熱帯の特殊な条件下では,温帯,亜熱帯,熱帯でもポドゾルが生成する場合がある。

永塚 鎮男

古土壌 こどじょう paleosol

完新世 (約 1 万年前から現在まで) より古い地質時代に生成され,現在の環境の影響をまったく受けていないか,あるいは過去の環境によって生じた特性が変化を受けつつある土壌。これに対して完新世の自然環境下で生成している土壌を現世土壌という。第三紀より古い地質時代に生成した土壌はほとんど浸食によって失われてしまっているので,実際の古土壌は第三紀から第四紀更新世にわたるいずれかの時代に生成したものが多い。地表下に埋没している場合と地表に露出している場合とがあり,その出現様式によってつぎのように区別される。 (1) 化石土壌 fossil soil   埋没古土壌 ともいわれ,火山灰,溶岩流,レス,氷河堆積物,飛砂,はんらん土砂,山崩れ,地すべりなどによる新しい被覆層の下に埋没され,地表の自然環境から遮断され,したがって土壌生成作用が中断し,生物の化石のように地層中に保存された古土壌。ただし埋没土壌のすべてが古土壌とは限らず,完新世に生成した土壌が埋没された場合は古土壌ではない。 (2) レリック土壌 relic soil  地表に露出し生物圏内にとどまっているが,現在の自然環境とは異なる過去の条件下で生成し,当時の特徴を残している古土壌。埋没古土壌の被覆層が削されて地表に再び露出した再露出古土壌の場合もある。レリック土壌は過去と現在の異なる自然環境の影響が同一の土壌断面内に重複して反映されている多元土壌である場合が多い。これに対して同一の自然環境で生成した土壌は単元土壌といわれ,現世土壌および化石土壌の大部分はこれに属する。複合土壌というのは二つ以上の母材にわたって土壌断面が発達したもので,多元土壌の場合もあるが単元土壌のこともあり,古土壌とは限らない。

 古土壌は地層を対比するための鍵層として利用されるだけでなく,その土壌型を同定することにより過去の自然環境を復元するための有効な手段となっている。日本の埋没古土壌の代表例として 立川ローム層 中にみられる 2 枚の暗色帯 (黒バンド) があり,上方暗色帯は今から 17000 ± 400 年前,下方暗色帯は今から 24000 ± 900 年前という14C 年代測定値が得られている。また日本の赤色土の大部分は更新世の高温期に生成した古土壌である。北海道南部の 〈若返りした褐色森林土〉 は最終氷期のポドゾル化作用の痕跡をとどめたレリック土壌であり,そのほか大雪山地域のレリック永久凍土層,十勝平野,鳥取などの古砂丘中の埋没古土壌などが知られている。

永塚 鎮男

森林土壌 しんりんどじょう

樹林地帯に分布する土壌をいう。森林土壌は森林を構成する樹木によって,毎年落葉枝の形で多量の有機物の供給をうけるが,その量は年間 1 ha 当り数 t から 25 t 以上にも及ぶと推定されている。落葉枝は土壌中の小動物や微生物によって分解され腐植となるが,分解過程で生成した無機成分の一部や無機化した窒素はふたたび樹木の養分として吸収利用されるので,これらの分解過程は森林における物質循環を支配する重要な因子であるとともに,森林土壌の形成に重要な影響を与える。落葉枝の分解は炭素含有量に対する窒素含有量の比 (炭素率) の大小で大きく影響され,その比が大きいと分解がすすみ,小さい場合には分解がおさえられる。また,落葉枝中のカルシウム含有量も土壌反応 ( pH ) に影響を与え,その結果,有機物の分解速度を左右するとも考えられている。気候の乾湿,寒暖は森林の形成,その種類ならびに森林土壌の特徴をも決定するほどの大きな影響力をもつ。日本の森林土壌のおもな種類は北海道のエゾマツ,トドマツ林下や本州高山地のハイマツ林下のポドゾル,ブナ林下の褐色森林土,シイ林下の黄褐色土,タブ林下の赤色土などである。このうち褐色森林土は日本の森林土壌の大部分を占め,乾湿の差により乾性褐色森林土,湿性褐色森林土などに細分されている。

松本 聰